硝子の破片
だがあの男に対してだけは怒りをぶつけた。


奴の胸倉を掴み、『オマエが殺したんだ』と言い放ってやった。


あいつは反論して来なかった。


生気を失った顔で、『そうだな』と呟いただけだ。


それから間もなくして、あいつは実家を出た。


菜々子の前からも姿を消し、親父だけは連絡を取り合っていたようだが、正樹の知ったことではなかった。


可哀相なのは菜々子だ。


彼女はみるみる窶れていった。


正樹は懸命に彼女を支えた。


取り乱して泣いている夜も、手首を切り病院に運ばれた時も、必死に慰め続けた。


もちろん、下心がなかったと言えば嘘になる。


彼女の細い肩を抱きしめながら、その意志に反するように、勃起していたのだ。
< 22 / 25 >

この作品をシェア

pagetop