硝子の破片
正樹は携帯電話を取り上げた。


携帯のデジタル時計は午前2時になろうとしている。


相手は誰でも良かった。


とにかくすぐに女を抱きたい気分だった。


三度目のコールサインで、女は電話口に出た。


よそ行きの澄ました声で応対しているが、絶頂を迎える時、この女は獣のような叫び声を上げることを正樹は知っている。


『会いたいんだ』滑らかに言葉が出た。


数秒の沈黙が流れ、女は迷っているような態度を示す。


携帯電話の向こうから、雑音が聞こえてきた。


客と思わしき男が数人、下品な笑い声を上げている。


『今夜は忙しいのか』


女はキャバクラに勤めていた。といっても、本業はOLで週末だけ出勤している。


源氏名は片瀬リンと名刺に書いてあった。


本名を尋ねたことがあるが、その夜は酔っていて、よく覚えていない。
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