ONLOOKER
そんな夏生は今、開会十五分前を知らせるアナウンスを聞きながら、その音が響き渡る中庭を眺めていた。
生徒会長である彼は、その権限にみあった責任も背負っている。
在校生代表挨拶や来賓への挨拶など、入学式で果たす役割は大きい。
本来ならば、準備に追われて休む暇もないはずだ。
しかし彼は、生徒会室を抜け出してやって来た北校舎の屋上で、ぼんやりとフェンスに凭れかかっていた。
簡単に言うと、サボっていたのだ。
手の中でかさりと音を立てるのは、もう少しすれば自分が壇上に上がって全校生徒の前で読み上げるはずの原稿。
新入生への、生徒会長からの挨拶文だ。
彼にとって、それが生徒会長業の中で一番苦手な行事と言っても過言ではなかった。
溜め息を吐く。
「……めんどう」
「ぶはっ」
夏生が呟いた瞬間に隣であがったのは、笑い声だった。
金茶の髪の男子生徒が、声を殺すように体を丸めて、くく、と揺らしている。