ONLOOKER


「なんか飛んでってるにょろよ?」


その声に振り向いて、宙を指差す細い指を追って、中庭上空に、風にひらひらと舞う白いものを見つけた。
はっきりとは見えないが、おそらく夏生の持っていた原稿用紙で間違いないだろう。
紅が扉を破壊的に開けた時か聖が一撃で沈められた時か定かではないが、そんな拍子に手から離れて、風で運ばれていってしまったのだ。

聖は復活して「あ、恋宵ちゃんだ。おはよー」なんて呑気にでれでれしているが、原稿は遥か遠くへ、もう見えなくなりそうだった。


「あーあ」
「行ってしまったな……悪かった」
「いえ……俺こそすいません」
「どさくさに紛れて許すとでも思ってるのか?」


夏生と紅は、一瞬前までの温度差が縮まったように、揃ってその様子を眺めていた。
くるりと向き直って、貼り付いていたフェンスに背中を預ける。


「探しに行く暇はないですね」
「印刷しなおすか?」
「いいですよ。あのくらい、暗記してますし」
「だろうな。手ぶらで壇上に上がって、竹河先生の肝を冷やしてやるのもいい」
「あの人はそんなんじゃ慌てないでしょう」


異色、と言ってもいいような顧問の顔を思い浮かべて、二人は眉をしかめた。
そしてペントハウスの方、結局開いたままになっていた扉へと、顔を向ける。
そこに立っている少女が、さっき原稿の行方をいち早く教えてくれたのだ。
夏生と聖は、少女と同じく紅の後輩であり、三人とも同級生である。

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