ONLOOKER
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「だ、誰にも言わないでください、お願いします!」
唐突というか衝撃的というか、険悪になりかけていた空気までまるっと呑み込んで、端から見ていた紅や准乃介や真琴にとってはなにがなにやらなカミングアウトだった。
直後「やべ、」と呟いた直姫は、まず六人に釘を刺した。
だが、それでも不安は拭えない。
学校生活では他人と距離を置いて、とにかく穏便に目立たない三年間を送るつもりだったというのに。
噂が広まるのも時間の問題かもしれない。
あまりに不覚にもつい口を滑らせてしまった自分が全て悪いと、腹を括らなければいけないだろうか、と直姫は考えていた。
しかしそれでは、性別を誤魔化してまでこの学校に入った意味がなくなるのだ。
「す、すいません、あの、自分は失礼します! 役職は勝手に決めて構わないので、お任せしますっ」
顔もあげられないままそう言って、生徒会室の豪奢な扉を後ろ手に閉じた。
どちらに歩き出せばいいのか一瞬迷って、右へ歩き出す。
荷物は教室に置いてきているのだ。
とりあえず一年の教室のある西校舎へ向かわなければ。
階段を早足で駆け降りようとした、その時だった。
手首がぐっと引かれて、直姫は肩を跳ねさせた。