ONLOOKER
「西林寺くん」
呼ばれ慣れない名字は、さっき教室で一言二言交わした佐野真琴がしていた呼び方だ。
恐る恐る振り向く。
そこにいたのは、真琴ではなかった。
「……し、ののめ、先輩」
「そんなに驚かないでよ」
ついさっき睨み合っていたのとは別の人物かと思うほど、穏やかで優しげで、柔らかい笑みを浮かべている。
だがすぐに、気付いた。
入学式の在校生代表挨拶の時と、同じ物腰なのだ。
(“表用”か……)
生徒会室から一歩外に出れば、他の生徒や教師がいつどこにいて、自分を見ているかわからない。
今は周りには誰もいないが、そこの教室から、階段の下から、誰かが歩いてくるかもしれない。
用心深い人だ、と、直姫はわずかな時間でそこまで考えた。