ONLOOKER

***


「真琴、まだ食べるの」
「え? 僕まだまだ食べられますよ?」


けろりとして言う後輩に、夏生や准乃介が信じられないという目を向けた。

花見を開始して、すでに小一時間。

皆、胃袋も思考も恋宵渾身のタコさんウインナーの物憂げな表情で埋め尽くされ、同時に卵焼きの食べ過ぎで胸焼けしかけてきている。
だがずっとはじめと変わらないペースで箸を進める真琴のおかげで、タッパーも重箱も空になりかけていた。

昼食を共にしたりする直姫は薄々勘付いていたことだが、どうやら草食系な見た目とは裏腹に、彼の胃袋はずいぶんワイルドらしい。
ピンク色のタッパーの中身は半分以上が真琴の腹に収まっているが、そのうえでさらに紅の重箱に残った唐揚げをにこにこしながら頬張っている。


「余るかもしれないと思っていたが……そんなに食べてくれると、作り甲斐があるな」
「紅先輩のお弁当すごく美味しいですよ! 今日はお花見が楽しみで、昼ご飯ちょっと少なめにしてたんです」
「そーなの?」
「え? 学食のご飯おかわりしてたじゃん……」
「一回だけだよ?」


当然のように言って小首すら傾げる真琴に、はは、と乾いた笑いをもらす。

その傍ではすっかりテンションの上がってしまった恋宵と聖によって、即興ライブが開かれていた。
恋宵がいつも抱えているギターは生徒会室に置いてきているので、膝打ちのドラムと手拍子でリズムを取ったアカペラだ。

直姫の入学式からの短い記憶では、恋宵は大抵いつもなにか楽器を演奏しているか、歌っているかのどちらかである。


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