ONLOOKER

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西林寺直姫(さいりんじなおき)は、桜の木を見上げた。

馬鹿に高い校門より、さらに高く聳えた木だ。
蕾は膨らみきっているが、きっかけがなかなか掴めないみたいに、まだ一つも咲かずにいる。

そういえば、今年は開花が例年より遅れていると、昨日の夜のニュースで報じていた。
直姫は一瞬手を止めただけですぐにそんな話題からは興味をなくし、次はどの映画を見るかを選ぶほうに意識が向いたのだが。


上を向いた拍子に、顔の横でさらりと黒髪が揺れた。
長い前髪は瞳と同じ、日本人には珍しいほどに漆黒で、色白の肌とお互いを引き立て合っている。
小柄な体とひんやりと冷たげな目元も相まって、やけに儚い印象を生んでいた。

まるで絵に描いたような、“深窓の令嬢”だ――身に纏うものが、これでなければ。


襟元に白のラインが入った、焦げ茶色のジャケット。
真っ白なカッターシャツに、きっちりと締めたネクタイ。
スラックスはネクタイと同じ柄の、深緑系統の上品なタータンチェック。
理事長のこだわりの一つ、“知り合いのデザイナー”に特注したという、学校指定の、男子用の制服だ。

しかし自慢のデザインも、中性的なその顔付きとでは多少の違和感が否めない。
実際、まだ自己紹介も済ませていない初対面の同級生たちからは、その容姿のせいで不躾な視線を受けることも多かったのだろう。
無表情の中にも、わずかな疲れが見えた。

それで控え室となっている西校舎の教室を抜け出して、桜の木が並ぶここへと辿り着いたのだった。

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