ONLOOKER
なぜか入学式案内のパンフレットの数が間に合っていないらしく、直姫と数人の新入生は手ぶらで教室に通されてしまった。
今持ってくるから、と丸い顔に丸い眼鏡をかけた教員が走り出て行ったが、直姫はそれを待たずに一人散策をはじめていた。
そのため、校内の全貌も位置関係も、全く分かっていない。
ここは庭なのだろうか、東校舎と隣り合った建物の窓が並んでいる。
いくつかは開け放たれているが、その中の一つ、三階の中央にある窓から、突然怒号が飛んできたのは、その時だった。
「夏生と聖はどこに行ったあ――――!!」
直姫は一瞬動きを止めたが、それだけで、目を丸くすることもなかった。
それに続いて、小さな悲鳴や、先輩、という叫び声が聞こえてくる。
なんなんだ、とその窓を見ていると、全ての校舎に等しく響き渡るような音量で、アナウンスが流れた。
開会十五分前をお知らせします。
それだけ二回繰り返して切れた放送に、直姫はそろそろ戻るかと、踵を返した。
さっきの丸い眼鏡の教員に「入学式が終わったあと、少しここに残っててくれな」と言われることになるのは、この三分後のことだ。
そしてそれから二時間ほど後のこと、直姫は、この先の少なくとも三年間を左右するような、そんな出会いを遂げることになるのだが――それを、まだ知るよしもない。