ONLOOKER


「だから第二更衣室か……」
「東側の端の木が一番背が低くて、幹が曲がってて登りやすそうですからね」
「そういえば、幹にかけられてる板も縄も、あの木だけボロボロでした」
「あ、足掛かりにしてたんだ」
「もしかしたら、昨日がはじめてじゃないかもしれないってこと?」
「だが、それがわかったところで……」
「いえ、案外手がかりになるかもしれませんよ?」


紅が目を瞬かせたのを見て、夏生は続ける。


「裏庭に人がいるのに、しかもあんなに大声で騒いでたのに、犯人はそれだけではやめなかったんですよ。木に近付いた直姫に見つかっててもおかしくなかった」
「……でも、犯人は自分が近づいてから、もう一度シャッターを切ってます」
「でしょ? しかも、見つかったら逃げ場のない桜の木の上で。いくらなんでも無謀すぎる」
「……て、ことは……」


恋宵が、細い顎を撫でて、ゆっくりとした口調で言った。


「犯人は……目立ちたかった。騒ぎを起こしたかった、とかかにゃ?」
「と、いうよりは」


眉をひそめた聖が、風を追いかけるようにして視線を流す。
その先には誰がいるでもなく、ただ裏庭で今にも散りそうな花を掲げる、大きなソメイヨシノが、窓の向こうに見えていた。


「犯人は……捕まりたかった……?」


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