ONLOOKER
「……三年B組、丸井芳樹。写真部員」
「……は?」
「東中出身だけど二年になるまでは桜ヶ丘中でしたね。成績は学年三十八位。ああ、これは一月にあった期末テストの結果です」
「あ、え、何を」
「両親と五歳下の妹、父方の祖父母と六人暮らし、電車で片道一時間半かけて通学してる。父親は小さな印刷会社を経営してますね。けど最近は経営難で」
「ちょっ、ちょっと待ってください! どうしてそんなことまで」
滔々と語る夏生の言葉を、盗撮犯――丸井は、慌てて遮る。
焦った様子を見ると、夏生が今言ったことは、全て事実のようだ。
顔色をなくした丸井に、夏生はにんまりと目を細めた。
「俺の情報網、なめないでね? アンタのこと全部調べさせてもらったよ。生年月日に産まれた病院、趣味、好きなアイドルから初恋の相手まで、ぜーんぶ。」
「な……、な」
丸井の開きっぱなしになった口から、意味のない音が漏れる。
夏生は、目を細めたまま、小首を傾げた。
故意犯的なその仕草が、余計に気味の悪さを助長している。
「ねえ、知ってること、ぜんぶ話しなよ。会社どうなってもいいの?」
あまりにストレートな脅し文句だ。
夏生と丸井の間で紅は苦い表情を浮かべ、准乃介は困ったように笑った。
一介の高校生がなにを馬鹿なことを――では、ない。
彼ならばそれができる。
そんな印刷会社一つ潰すのに、わざわざ別の人間を使うまでもない、一介の高校生の権力でもどうにかできる。
そう言っているのだ。
差を見せつけるには、下品なほど効果的な言葉だった。
真っ青な顔で俯いた丸井が、顔を上げる。
だがその目には、怯えや絶望ではなく、はっきりとした決意が浮かんでいた。
「……僕に……盗撮を、させたのは」