ONLOOKER

***


翌日、直姫は、テニスコートにいた。
直姫だけではなく、真琴と聖、そして夏生も一緒だ。

悠綺高校の敷地は大まかにいって、中庭を四角く囲む東西南北の校舎、そしてその外側をさらに大きな四角に囲む各施設、という形だ。
各校舎の裏庭には目隠しを兼ねて、北校舎の桜のように、春夏秋冬の木が植えられている。

その中でも、エンジュの根本にアジサイの植えられた東校舎の裏庭の外に、テニスコートはあった。


「……で? どれですか、丸井さんの言ってた人」


アジサイの影に屈み込んだ四人は、小声でぼそぼそと囁き合っていた。
テニスコートのほうから見つからないためであるが、東校舎のほうからではむしろ目立っていることは、この際仕方がないと割り切っている。

二面しかないコートの広さのわりに、テニス部員の数は多いようだ。

一見してそう思ったのだが、どうやらそれは勘違いであることに、すぐに気付いた。
男子テニス部の部活動中なのに、コートを囲む半分以上が、制服のままの女子生徒なのだ。
誰かがプレイをするたびに一部が歓声を上げたり、手にタオルやドリンクが握られたりしているが、まさか彼女ら全員がテニス部のマネージャーであるなんてことはないだろう。

ただ見に来ているのだ。
芸能人と同じ感覚で生徒会役員たちに憧れるように、他の目立つ生徒にもまた、いわゆる“ファン”がいる、ということだ。


「んーと……あれ」


一人の部員がコートを離れると、一際大勢の女子生徒たちが、ぞろぞろとその周りを囲んだ。
どうやら一番人気のその人が、直姫たちが探している人物らしい。


「2Dの吉村圭一、テニス部主将。確か、家は出版社だったかな?」


聖が呟いたのは、同じ学年なら知っていてもまあそれほどおかしくはないかな、という程度の、当たり障りのないものだった。

だが昨日夏生が丸井に白状させるために使った情報は、そんな浅いものではない。
普通にしていればまず知るはずのないものも、中には混じっていた。

全校生徒の顔と名前を記憶しているとは言っていたが、まさか全校生徒の個人情報まで頭に叩き込んでいるわけではあるまい。

つまり、調べたのだ。
実に正確な情報を、実に迅速に。

どうやって調べたのかは、聞かないほうが身のためな気がしている。

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