ONLOOKER


生徒会室に呼び出された吉村圭一は、なぜ自分が呼ばれたのか、わかっている様子だった。

紅の固い表情を見れば、心当たりのある人間は平静ではいられないだろう。
今にも真剣で斬られそうな雰囲気の中、吉村は開口一番、大きな声を出した。


「すいませんでしたあっ!!」


その声と同時にぱたりと閉まった扉を一瞥して、夏生は呆れ顔で言った。


「そーゆうのいらないから。大きな声出さないでくれる」
「で、でも」
「丸井から話は聞いた。彼に指示を出して盗撮をさせたのは君なんだな?」


吉村は、深く下げていた頭をゆっくりと上げる。

その表情を見て、尋ねた紅は眉をひそめた。
その顔はまるで、なにを言っているのかさっぱりわからない、とでも言いたげだったのだ。


「僕は……テニス部の後輩の女子のことを、調べてほしいって頼んだだけです」
「は? なにを言っているんだ」
「まさか、丸井くんがあんなことするとは思わなくて……。好きなものとか、ちょっと聞き出してくれるだけでよかったのに」
「盗撮は丸井が勝手にやったっていうのか?」
「そうですよ! 写真が趣味だからって、盗撮なんてするとは思ってなかったんです」


吉村は、必死に訴える。
小綺麗な顔立ちに浮かべる痛切な表情は、誠実そうに見えた。

だが夏生は、長い睫毛を伏せて、溜め息を吐く。


「……そんな言い訳が通用すると思ってるの」
「え、いや、僕は本当に」
「甘く見すぎ」


普段の愛想のカケラも残っていない話し方と、どこか気だるげな表情に、吉村は狼狽えた様子を見せた。
探るように夏生をちらちらと伺っているが、真正面から目を見る度胸はないようだ。

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