ONLOOKER
夏生はゆるりと瞼を上げて、吉村をちらりと見た。
「その、後輩の女子部員。恩田聖菜ちゃん?」
「え?」
「中等部の頃に告白して、とっくにフラれてるんでしょ」
吉村は目を大きく見開いた。
口も開けたままで、夏生に視線を返している。
「『好きなもの聞き出してくれるだけでよかった』? テディベア蒐集が趣味だって調べ上げて誕生日にプレゼント押し付けたの、誰だっけ?」
「な、んで、そんなこと」
「休みの日に偶然装って遊園地で待ち伏せてたのは?」
「それ、……あ、」
吉村はもう言葉も出せずに、それでもなにか言おうとして、ただぱくぱくと口を動かしていた。
その表情は、このあとどんなに否定しようと無駄なほど、夏生の言葉が真実であることを裏付けている。
「丸井を使ったのは、彼の両親の印刷所が、あなたの父親の出版社と契約していたから。父親に口利きして契約解消されたくなかったら自分の言うことに従え、とでも言ったんでしょ」