ONLOOKER
掴めないひと
*****
悠スポ号外に盗撮魔の話題が掲載されてから、ちょうど十日が経った頃だった。
悠綺高校を駆け巡る様々な噂話の中に、こんなものが現れたのは。
「ねぇ、聞きまして? 二年生の吉村先輩、しばらく休んでいたと思ったら、転校したそうなんですの」
「あら、本当に? テニス部のエースじゃない。私、一度彼とお話してみたいと思ってましたのに」
「でも、どうしてこんな時期に転校なんでしょうね?」
テニス部部長、二年D組の吉村圭一の、唐突な転校の噂は、ぽっと沸いて、そして、すぐに消えていった。
家庭の事情による転校ということになっているのだ、表向きは。
学校に出てきていなかった理由も、怪我だとか体調不良だとかで、うやむやにされている。
なにが真実なのかは、誰にもわからないままだ。
一部の生徒を除いては。
「転校ねえ……夏生先輩、どんな手回ししたんだろ」
「ちょっと直姫、あんまり大きな声で言っちゃ駄目だよ」
どこか冷めた表情で教室を見渡す直姫とは対照的に、真琴は周囲を気にして小声で言う。
真面目だなあ、と思いながら、直姫はなおも言った。
「あれだけ脅かしちゃったんだから、そりゃ学校には置いておけないよね。本性バラされたら困るもん」
「え? でも、丸井先輩はいるよ?」
「だってあの人は、夏生先輩たちのおかげで助かったようなもんでしょう? あんな脅迫に屈してたぐらいだし、もともと義理堅い人なんじゃない?」
だからきっと、彼は口を閉ざしたままだ。
そう、直姫はあえて続けはしなかった。