ONLOOKER
「……直姫?」
呼び掛けに顔を上げた。
この一年B組の教室の中で、西林寺直姫の名前を呼び捨てにするのは、たった一人しかいない。
「……え? なに」
「ケータイ、鳴ってるよ?」
机の隅に置いてあったスマートフォンが、ガタガタと耳障りな音を立てていた。
『学業に関係のないものを持ち込むことを禁ずる』という校則を真琴は律儀に守っているようだが、直姫をはじめとしたほとんどの生徒は、はっきりと書いていないのだからと、携帯電話を持ち込んでいる。
取り上げて確認すると、メールのアイコンが現れていた。
「あ……恋宵先輩?」
「ん、どうしたの?」
「……これ」
小さく首を傾げてから、直姫は画面を真琴のほうへ向けた。
真琴は机の上の眼鏡をかけると、文字を覗き込む。
そして、同じように、小首を傾げた。
「……え? 放送じゃないんだね」
「うん。紅先輩の放送だと騒いじゃって聞き取れなくなるから、やめたのかも」
「あ、そっか。この間もすごかったもんね」
恋宵からのメールは、件名に『事務連絡!』と書かれていた。
そして本文には、普段のテンションとは真逆の落ち着いた文章で、こう書かれていたのだ。
『今日の放課後、生徒会役員は必ず集まってください、だって。すぐ終わるから、よろしくね。』