ONLOOKER
***
てっきりまた生徒会室でなにか話し合いがあるものだと思っていたのだが、生徒会室前に全員が揃ってから向かったのは、理事長室だった。
直姫と真琴はちょっと不思議そうな顔をする程度だったが、上級生の五人は、大袈裟ともいえる反応を示していた。
夏生と紅が、真剣な顔つきで目配せをしあう。
聖はそわそわと落ちつかなげにしては、恋宵にちらちらと視線を投げかけていた。
やけに緊張しているのだ。
ついに異質な空気に耐えかねて、真琴が言う。
「あの、どうしちゃったんですか?」
「え?」
「なんだかみんな落ち着かないですし……紀村理事長になにかあるんですか?」
真琴の不安そうな表情に、准乃介がいつもの笑みを浮かべた。
「うーん……今まで理事長に会ったことないんだよねえ」
「そうなんですか?」
「そう、俺だけじゃなくて、夏生たちも」
「えっ?」
声を上げたのは、直姫もだった。
准乃介の言った夏生“たち”というのは、夏生と紅と聖、高校からの外部入学ではない三人、という意味だろう。
彼らは幼等部からずっと悠綺に通っているはずである。
それなのにこれまで十三、四年ほど、自分の通う学校の理事長に一度も会っていないなんていう話は、にわかには信じられなかった。
「でも悠子さん、何度か日本に来てますよね」
「直ちゃん、理事長に会ってるにゃ?」
「はい。えっと、前に会ったのは……確か、八歳の時です」
「学校には時々いるんだよね。でも生徒の前には出てこようとしない、あくまで謎の人でいようとしてるんだと思ってたんだ」
聖の言葉にはきっと、「けど」と続くのだろう。
今になって突然、悠綺高校の生徒会に会う理由が、よくわからないからだ。
だが、理由なんて特にないのだろうと、誰もが直感していた。
日本に戻ってきたから学校に寄ってみた、そしたらなんとなく生徒に会ってみたくなった。
きっと、それだけのことなのだ。