ONLOOKER
彼らは今、南校舎三階、中央の扉の前に立っていた。
理事長室のドアノブは、きっとあまり触られることもないのだろう、ぴかぴかのままの状態を保っている。
ライオンの彫刻がくわえたノッカーを打つと、中から「どうぞ、入って」という声。
「失礼します」
夏生が、小さく息を吐いた。
金色のノブを捻って、重厚な扉を開く。
生徒会室の扉も重く大きく豪奢だが、理事長室の扉は、それよりもさらに上質だった。
「いらっしゃい。生徒会長の、東雲夏生くんね? それから……石蕗紅さん、沖谷准乃介くん、柏木聖くん、伊王恋宵さん、佐野真琴くん……西林寺直姫、くん」
はじめて彼らの前に姿を現した紀村悠子は、真っ赤な口紅の乗った唇を、艶やかに微笑ませていた。
少し古めかしいが上品なダークブルーのスーツに、長いブロンドの髪を揺らして、屋内だというのに大振りのサングラスをかけている。
謎めいた雰囲気に、誰もが呑まれていた。
幼い頃は何度も会ったことがあるという直姫でさえ、言葉をなくしていたのだ。
だが例外が一人、笑みを返して口を開く。
「はじめまして。お会いできて嬉しいです」
「私もよ……あなたたちのことはいつも聞いてます。なかなかうまくやってくれているそうじゃない?」
「いえ、そんな……至らないことばかりです」
「あら、謙遜が似合わないわね」
ふふ、と笑う。
少し皺の寄った口許を見ても、一体何歳なのかさっぱりわからないし、それどころか、本当に日本人なのかさえ不明だ。
直姫は父から、自分が三十代の頃に彼女と知り合ったと聞いているが、その時からこんな雰囲気は少しも変わっていないらしい。
夏生はさっきまで見たこともない表情を浮かべていたというのに、いざ紀村理事長を前にすると、余裕のある笑みさえ見せていた。
紀村悠子とは全く種類の違う、食えなさだ。