ONLOOKER
それから彼女は、あとの五人とも少し言葉を交わした。
世界中飛び回っていて、しかも学校はこの悠綺高校だけでなく、幼等部から大学まである。
生徒に深く接する機会なんてほとんどないだろうに、その言葉には、驚くほど一人一人をよく見ていることが表れていた。
そして紀村悠子は、直姫のほうへ顔を向けた。
サングラスのせいで、表情は読めない。
赤い唇が、三日月を描く。
「……直姫、ちゃん。大きくなったわねえ」
「お久しぶりです、悠子さん」
「お父様はお元気かしら……まあ、聞くまでもないわね」
「元気、だと思います。しばらく会ってませんけど……時々手紙が来ます」
「まあ、手紙? そう……変な人ね」
くすくすと笑う。
そして壁にかけられた時計をちらりと見て、言った。
「どう、高校生活は。大変?」
「楽しそうですね……」
「あら。だって、こんなこと、この学校でしかできないじゃない? あなたたちも知ってるのよね?」
少し眉を寄せた直姫を笑ってから尋ねたのは、男子生徒として通っている直姫の、本当の性別が女である、ということだろう。
夏生たちが頷くと、彼女はいっそう楽しげに笑った。
「そう、じゃあ、困った時は助けてあげてね」
「この人たちには頼りませんよ。なんかぶっとんでるし」
「ふふ、かわいくない後輩ねえ。……もっと話を聞きたいところだけど、私これから台湾なのよ。ごめんなさいね」
小さく首を傾げる。
その仕草は、うら若い少女のようにも、成熟した大人のようにも、あらゆる人間を見てきた老婦人のようにも、見えた。