文系男子のその後。
[真朱]
「御卒業おめでとう御座いますーーーーー真朱『先輩』」
「ああ…ありがと…でもタメで良いよ田原くん…なんか…」
ムズムズする。
朝の教室では、後輩達が部活の先輩、憧れの先輩等に会いにきていた。
中でも目立つのは、謹慎がやっと解けた田原。
あたしの机の前でニコニコ笑っている。
「いやあ、一応先輩ですから」
「じゃ先輩命令ね。タメにして下さい頼むから」
「分かりましたよ…真朱さん」
教室の隅で、女子バスケの人達が抱き合って泣いていた。
「…真朱さんは何処の大学へ?」
「んー…名前言っても分かんないよ 多分」
あたしは、土器市から少し離れたそこそこのレベルの私立文系大学に進学する。
そこで色々と学んでライターとかになれたらなあ、とか、ぼんやり思っている。
明確な夢はやはり必要だと思うのだけど、二年前のあんなことがあってから、ホントに人生は何があるのか分からないと疑ってかかる様になっていた。
木月は公務員試験を受けていた。確か警察だったか。
谷内は理数系の大学に行くらしい。
田原は後一年此処に残る。
皆が皆、違う道に進み始めていた。
『生徒は一度教室に戻りーーーー』
放送が聞こえた。
じゃあ、後でね、と其処此処で声がした。
さっき弓道部の後輩から貰った手紙を右手に握ったままで、
「俺、戻んね」
「あ…うん」
ニコッと田原が笑う。
あたしは頷いて、右手を振った。
二年前助けてくれてありがと、
とか
言えなかったな。そういえば。
あたしあの時、田原と木月に面と向かって言ったっけ?
憶えてない。