彼女とライブと。【完】
やがてラスト2組になったとき。
俺も諦めがついてきた。
きっと出演者じゃなかったんだな。
そう思い、兄にそろそろ帰ろうか
と持ちかけようとした瞬間、
ステージがわっと湧いた。
次の人が出てきたのだ。
舞台の袖から
出てきた人を見て
俺は息を飲んだ。
――…彼女だ――
結んでいた髪は下ろされ、
キャミソールと
ジーンズだけになっていて、
魅惑的だ。
ちょっと低めの
落ち着いた声で挨拶をする彼女。
長い髪がライトに照らされて
淡く、淡く、透ける。
誰よりも、何よりも、凛と、
そこに在る、彼女。
兄は釘付けに
なっている俺を見て
首を捻っていた。
―…やがて曲が始まった。
弾いて、叩いて
チャッと音が跳ねて。
時間が止まる。
回りの野次が消えていく。
低めの声が心に響く。
その空間はとてもは澄んでいて
ステージ上の彼女は
とても綺麗だった。