いとしのポテトボーイ
雪沢クンは水道の真下に頭を持って行って蛇口をひねった。
水飛沫がわたしのいる所まで飛んで来た。

タオルで無造作に髪の毛や顔をゴシゴシと拭きながら、雪沢クンは水飲み場のコンクリートに腰掛けた。

「中学ン時の、サッカー部の先輩だった」

「え?」

「俺も、安土も奈良岡も、みんなサッカー部だったんだ」

「嘘・・・だって奈良岡クン、サッカーが嫌いだって。それに、安土クンも奈良岡クンも暴走族だったんでしょ?」

「中1の時、奈良岡は・・・等々力サンの彼女をバイクで死なせたんだ」

「え?」

「後ろに乗っけててさ。事故って・・・奈良岡は1カ月のケガで済んだけど、彼女は即死」

「そんな・・・」

「でもバイクに乗せろと言ったのは彼女のほうなんだ。なのに奈良岡のヤツ、ひとりで責任感じて」

わたしは相槌を打つことができなくなった。

中1の時の話。

恋人。

無免許運転。
事故。

わたしには想像もつかない遠い次元の話だ。


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