必死こいて桜姫やってやんよ!
「あの、」
運転手の人があたし達を一瞥する。
「今日ちょっと友達と出かけたいんですけど…」
「はじめまして結城と申します。
実は折り入って紀憂さんにお話がありまして。
会社…というか経営について、ちょっと御指南頂きたくお時間を頂戴致したいのです。
出かけるといっても結城の家に向かうだけですが…」
「…いいですかね?」
「……。」
どこかの運ちゃんみたくハゲにサングラスではないこの人は軽く頷くと、ウィンドウを閉めてブォンと音をたてながら走って行った。
「ふぁ~、ありがとな、きっとあたしだけだったらダメだったわ」
伸びをしながら隣の結城さんを見る。
ってうぉぉおい!
泣いてる!なんで!
運転手さん、怖かったのか?
「わっわたくしっ…友達ですの?
本当に友達ですのっ?」
「え、そこ?」
うるうると瞳を輝かせる結城さんに真顔で突っ込んでしまった。
なんだこの人可愛いな。
「紀憂さんとどもだぢになれるなんて、か、かんげぎでずわぁぁ」
すげーな、美人はここまで泣いても鼻水出ないのか、羨ましいな。
あたしだったら鼻水大放出…って自分で想像して悲しくなってやめる。
「あたしそんなに凄い人じゃないよ?
どっちかってーと、平凡よりのただの金持ち」
「そんなことないですわ!
だって…だって、最初から私“個人”で話して下さったのは紀憂さんだけでしたものっ」
結城さんは結城財閥のお嬢様だ。
あたしなんかとは天と地の差。月とスッポン。
彼女を見るとどうしても親の存在まで見えてしまうのは、この世界に生きる人達の宿命だろう。
「結城さん」
目元を隠し泣きじゃくる彼女の手をとり、あたしの親指でキュ、と拭う。
「泣かないで…ハンナ」
「……それはズルいですわ」
カァッと真っ赤になった結城さん…ハンナは変わらずうるうるしているけど、涙は止まったよう。
よかったよかった。