【短】カラフルな恋物語



私は100メートルをゆっくり歩いた。

足並みが遅すぎて、ヒールの忙しい音は無い。


フッとよみがえった記憶に、重なってしまうから、私はわざとヒールを鳴らしてみる。

あのとき無かった音。時が流れた音――


もう私の記憶は、鮮明に残ってない。

白と黒とピンクと、赤だけのやわらかな記憶。


春なのに、人並み以上に寒がりなキミは、赤いマフラーをしていたよね。

裁縫がからっきしダメな私が、クリスマスプレゼントとして一生懸命編んだ、あの赤いだけのマフラーを。


糸がほつれても、一部分が汚れてしまっても、キミはずっと。

三年も、ずっと。



あの赤いマフラー、

さすがに、もう、無いよね――?





< 3 / 28 >

この作品をシェア

pagetop