【短】カラフルな恋物語
私は100メートルをゆっくり歩いた。
足並みが遅すぎて、ヒールの忙しい音は無い。
フッとよみがえった記憶に、重なってしまうから、私はわざとヒールを鳴らしてみる。
あのとき無かった音。時が流れた音――
もう私の記憶は、鮮明に残ってない。
白と黒とピンクと、赤だけのやわらかな記憶。
春なのに、人並み以上に寒がりなキミは、赤いマフラーをしていたよね。
裁縫がからっきしダメな私が、クリスマスプレゼントとして一生懸命編んだ、あの赤いだけのマフラーを。
糸がほつれても、一部分が汚れてしまっても、キミはずっと。
三年も、ずっと。
あの赤いマフラー、
さすがに、もう、無いよね――?