手の中にある奇跡
ピッ

「社長、笠原主任がお見えになりました。」

「通してくれ」

ピッ

片桐から笠原が来た事を知らせる内線が入った。


「笠原です、失礼します。」


スッと中に入って来た笠原は意外と背が高く、俺と数センチしか変わらないほどの背丈だ。

薄いグレーのスーツに藍色と薄い水色の縞模様のネクタイをしている。

少し青みかかった黒髪によく似合っている。

俺より4歳年上で、仕事とプライベートはしっかり区別できる人間だ。
会社の中でも、一番信用
出来る男だ。

顔はつり目だが、鼻筋も通っていて、女受けはいいだろう。

あまりにも、笠原に女の影が無さすぎて、変な噂もたったりするが当の本人は、素知らぬフリだ。

「社長、こちらが追加の資料になります。車内で目を通されますか?」



「そうだな、もう良い時間だ。」



2人で社長室を出てエレベーターに乗り込む。


「行ってらっしゃいませ。」


「あっ、片桐さん。社長は今日は夜まで掛かるので、定時に上がって下さい。」


「はぁ…」



俺ではなく笠原の指示に少し困惑気味の片桐に軽く頷き、同意を示す。





「飯でも食いに行くのか?」




「そうですよ。もちろん社長の奢りで、【ロナーニョ】ってイタイアンです。そこじゃないと駄目なんです。」


「アソコはなかなか予約が取れないらしいじゃないか、俺も行ってみたかったが、何で今日なんだ?しかも男同士で、俺はノーマルだぞ。」

「俺だってノーマルですよ。ある子を誘う餌ですよ♪かなり、辛口ですが、仕事に関してはイチオシです。」

「珍しいな笠原に女の影があったんだな。」

「本人の目の前で、それは禁句ですよ。打たれますから、」

「そう言う趣味か?」


俺の言葉に、痛いのは嫌ですと苦笑しながら、車に乗り込む笠原に、本当に珍しいと思わずにはいられなかった。
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