手の中にある奇跡
「用意できたか?」

社長の言葉にハッとして

「あっ…各、へ、部屋の確認だけしてきます!」

なぜか、言葉に詰まってしまって急ぎ足で2階に駈け上がった。

恥ずかしい!
なにやってんのよ!私!

自分に突っ込みを入れながら部屋の見回りを終えて社長の元に戻ってきた。

「行くか。鍵は俺が掛けるから、」

「はい。」

社長はスペアを持っているんだと思い、頷いた。

外に出ると5月にしては、少し暑い空気だった。

駐車場には会社の車らしい黒のベンツ…

高そうだな…

すると社長が助手席のドアを開けて、此方を見ていた。

「早く乗れ。」

「あ、う…運転」

私のオドオドしている姿に気づいたのか、クスリと笑い 俺が運転に決まっているだろうと言った。

ベンツなんて…乗った事がないとも言い切れないけれど…今はとにかく、居たたまれない…車内からは爽やかなフレングラスの匂い…スピーカーからは、洋楽…多分バラードが高すぎず低すぎずに流れている。

運転席の方をちらっと見れば、両手でハンドルを握る社長の姿が見える。

え!?あれ!?

違和感を感じ、ハンドルを凝視する。

「こ、公用車…じゃ…」

「よく、わかったな、これは俺の車」
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