恋と魔術のはじめ方
すでに諦めたようで、狭い入り口の両脇に位置する椅子に座って観戦しているようだ。

…始まってからかれこれ30分ほどの時が経ったのではないだろうか…。どちらかが折れるしかないこの会話に、数名の観戦者はある種胸を踊らさせていた。

しかし、その白熱した会話を終わらせたのは二人のどちらでもなかった。

少女が一歩も引き下がらない様子でもう一度机を叩こうとした時だった。

バタン

勢いよく、入り口のボロい茶色の木製ドアが開く。

入ってきたのは50代の初老の男だった。白髪がやや薄くなった頭に、紅白の派手なデザインのポロシャツが特徴的だ。あとはそれとは対照的に地味な黒い綿ズボンを着てはいるが、お世辞にも似合っているとは言いがたい。

初老の男は息を切らしながら、汗だくの顔をこれまた趣味の悪いハンカチで左右交互に拭いている。その後、ハンカチをポロシャツの左胸ポケットに押し込みながら、

『ハァハァ…た、大変だ。そ、そこで、噴水近くであの魔術士ライラックが、指名手配の…さ、盗賊達を、捕まえようとしてるぞ。…ふぅ…』
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