【完】別れの季節、出逢いの季節-勿忘草の想い-
 結局入学式なんて形式だけで、まともに聞くような話はあまりなかった。

 そして…。


「ねぇ!帰り遊ばない?」

「え…っ」


 廊下で藤架を待っていたときに、声がかかった。

 …紀野、ちゃんだ。

 話すときは呼び捨てだけど、実際は結構抵抗がある。


「わ、私」

「この辺りにいいお店できたって聞いたんだ!行ってみたいけど一人じゃ気が引けてさ。行こうよ!」


 彼女がこのセリフを一通り言い終えたとき、藤架が教室から出てきた。

 …隣には、他の子。


「あ、春!」

「…藤架っ」


 私、もしかして邪魔?足手まとい?


 複雑な気分になりながらも、声をかけてくれた藤架に返事をする。


「あ、もしかして…遊ぶ?」

「え、あ」


「…どうしたの?」


 不思議そうな表情を見せる藤架。

 完全に紀野ちゃんのペースになっていたから、話を聞こうとしてくれる藤架が妙に懐かしかった。


「藤架ちゃん。先行ってるよー?」

「あ、うん」


 そういってうなずいた藤架。

 どこか行く約束してるのかな。


「うん、遊び行くんだ。じゃぁまた明日ねっ!」


 半ば無理やり笑顔を作って、紀野ちゃんとその場を去る。

 藤架はもうすでに、新しい友達と上手くやってるのに、私だけこのままな訳にはいかないんだ。



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