ONLOOKER Ⅱ
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「……なんでよりによってここを選んだんでしょう」
ぼそりと呟いた直姫の言葉に、頷かない者はその場にいなかった。
「ねー、ほんとに……」
「もう少しいけば動物園あるじゃないですか。あっちの方が人多くて広くて目立たないのに」
「しょうがないよ、サトちゃんが遊園地に行きたいって」
「これじゃあ尾行するこっちが目立ってしまうな……」
「まぁ……それもしょうがないよねえ。」
細い紺色のフレームの眼鏡をかけた准乃介が、苦笑を浮かべた。
彼の眼鏡は度の入っていない伊達だが、真琴がかけているシルバーのハーフリムの眼鏡は、普段から使っているものだ。
二人の雑な変装に反して、聖はウィッグに恋宵は帽子と、多少凝ってはいる。
直姫はもともとあまり派手な格好を好まないのでそのままだが、恋宵や聖は、普段着とは違う地味な着替えまで用意して臨んでいた。
とはいえあくまで彼らの基準なので、准乃介から「それどこが地味なの?」とつっこみが入っていたが。
紅もなにもしなくては目立つからと、長髪を編み込んでまとめ、帽子を目深に被っている。
直姫たちが台所で小芝居を打っている間に、准乃介にスタイリングされたらしい。
六人中、意図的に表に出ないようにしている直姫を除いて、五人全員がなんらかの形で知名度があるのだ。
周りに気付かれて話しかけられでもすれば、相当面倒なことになるだろう。
そんなわけで、なんとか溶け込む方法を考えた結果だ。
けれどそこまでしてなお、彼らは人目を引いていた。
多少顔を隠して簡素な格好をしたところで、端から見れば、どこか精錬された雰囲気を持つ美男美女の集団、ということに変わりはないのだ。
平日の夕方、という全く混まない時間帯も影響してか、通る人通る人皆が、程度の差はあれど、彼らに視線を送っていく。