ONLOOKER Ⅱ
「な、なんなの、気持ちわるい……」
ぴんと立った長い耳が消えたのを見ながら、恋宵が呟く。
袖を握っていた手はいつのまにか直姫の腕を取り、肩に寄り添っていた。
床に落ちたソフトクリームは、すっかり溶けてしまっている。
それをローファーで踏んでしまわないように足をずらした恋宵を、直姫は呼んだ。
「、先輩っ!」
彼女がウサギの後ろ姿をじっと見ていた間に、風船の紐に手紙が結び付けられていることに、気付いていたのだ。
それを広げたままで、直姫は恋宵を振り返った。
「直ちゃん、?」
「これ……」
顔が強張っているのが、自分でもわかるほどだ。
指先から体温が引いていく。
直姫の様子を見た恋宵が、戸惑ったように目を泳がせた。
手からすり抜けた風船が、上へと上がっていく。
ドーム形の天井に遮られて、空へは飛んでいけないはずだ。
照明にでも引っ掛かって、じきに焼け落ちてしまうだろう。
直姫は、手にした手紙を恋宵に差し出した。
恋宵は怪訝そうにそれを受け取る。
そして素早く視線を走らせると、顔を上げて、直姫を見た。
色をなくしたその表情を、直姫はただ情けなく見返す。
「これ、うそ、ほんとに?」
「先輩……、どうしよう」
喉から絞り出した声は、思ったよりも動揺している。
まるで他人事のように、直姫はそんなことを思っていた。