ONLOOKER Ⅱ
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口外するな、という脅迫状のお陰でまったくことを荒立てずに進めていたため、後始末らしい後始末も必要なかったものの。
疲れきった顔の彼らといたたまれない表情の里吉が揃って石蕗邸に帰宅すると、待ち構えていたのは、落ち着かない様子の榑松と、展開について行きそびれた六人の大男たちだった。
「……あちゃあー……」
「忘れてましたね、完全に」
そういえば、遊園地に向かう時、ボディーガードたちを騙して石蕗邸を抜け出していたのだった。
里吉が消えて一度戻ってきた時も屋敷にいなかったせいで、すっかり失念してしまっていた。
めんどくさい、と口の動きだけで夏生に言うと、もうやだ俺、と返ってくる。
榑松は、里吉の姿を確認するなり走り寄って来た。
「お嬢さん! 皆さんも、ご無事でやんすね!?」
「榑松さん……、ご心配おかけしました、ボディーガードの方たちも」
「お嬢さんから聞いてやす。なにも大変なことはなかったんすよね? あの人らにも、全部説明しときやしたんで」
そう言って、黒いスーツの集団を振り返る。
揃って怖面の彼らだが、サングラスの奥にも、安堵の表情が窺えた。
夏生以外の六人で里吉が屋敷を抜け出す計画を立てていたことも、里吉の狂言誘拐事件のことも、紅から連絡を受けた榑松がすべて話しておいてくれたらしい。
どうやらこれで一件落着、と思いきや、そうではなかった。
榑松が、にやりと口の端だけ上げる。
「あの人らからも、みなさん方にお話があるそうですよ」
「え?」
それから聞いた話は、なんとも間抜けで、ややこしくて、実に“らしい”事実だった。
なんと、六人のボディーガードたちは、紀村悠子の派遣した偽物だったというのだ。