ONLOOKER Ⅱ


あまりの出来事に、客席もしんと静まり返っていた。
割れた硝子の破片や、砕けた機械の部品が、舞台上に散らばる。

次の瞬間、客席からは大小の悲鳴が上がった。

真琴の肩越しにそれを聞きながら、直姫は詰めていた息を吐いた。
せっかくここまで、自分の捻挫以外は何事もなく進んでいたというのに。

しかし深く考える間もなく、視界にちらちらと白いものが入って、直姫は舞台袖に再び目を移した。

『佐野、そのままなんとか続けて』

山田琢己が、黒い太字が書かれたスケッチブックを掲げている。

直姫にアドリブの芝居をこなす技量はもちろんない。
だから、真琴へ名指しの指示なのだろう。

あくまで自然な仕草でその文字を見た真琴は、ちらりと直姫と目を見合わせた。
それから直姫の手を引いて、立ち上がる。


「奈緒子……大丈夫、怪我はない?」


その目が伝えようとしていることをなんとか汲み取って、直姫は頷いて返事を返した。
とにかく今は、劇を無事に終わらせることを考えなければいけない。

さすがプロというべきか、真琴の表情には、いつもの困った顔や苦笑いは、少しも感じられない。
それに関心しながらも、言葉を選んでいることを悟られないように、なんとか倣う。


「ほんとに危なっかしいな、君は」
「でも、蛍さまが守ってくれるんでしょう? 今みたいに」


そう言って笑い合って、二人はもう一度抱き合った。

予期せぬ事故に観客も戸惑ったとはいえ、彼らの即興の演技によって、歓声と会場一杯の拍手のもと、幕は降りたのだった。

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