ONLOOKER Ⅱ
「あ、ありがとう」
「まあ、よかったね、無事に終わって……」
真琴は舞台上での頼もしい表情とは一転、困り顔の苦笑いを浮かべている。
そんな彼を尻目に、直姫は視線を巡らせた。
(あれ……、さっきまではいたような……?)
そこにいるはずの──麗華や松浦と一緒に真っ先に駆け寄ってきそうだった、とある人物の姿が、見当たらないのだ。
もうその人の本番での仕事は終わっているはずである。
それが気に掛かって、直姫は近くにいたクラスメイトに尋ねた。
「え、さっきそこで、幕を下ろしてたはずだけど……」
「そっか、ありがと」
更衣室へ戻って、足にまとわりつくワンピース姿から、急いで制服に着替える。
それから、舞台の隅にある細い階段へと向かった。
幕の上げ下ろしをするレバーは、その階段を数段上がったところにあるのだ。
天井に吊られた照明器具の取り外しは、舞台を見下ろすキャットウォークの上でしかできないはずだ。
そして、キャットウォークへ上がる道は、レバーのある階段一つのみ。
(もしかして、あれは事故なんかじゃないんじゃ……)