ONLOOKER Ⅱ


直姫が痛めた足を庇いながら上に辿り着くと、そこには誰もいなかった。

舞台を見下ろしながら、キャットウォークを歩く。
一つだけライトのなくなっている場所は、舞台中央より、少し上手にずれたところ。


(落ちたのはここか……)


最後のシーンでの直姫の立ち位置とはずいぶんずれているが、微動だにせずに避けられるわけでもない、絶妙な場所のものだ。
薄暗い中、屈み込んで目を凝らす。

ライトを固定する土台に開いたボルトの穴には、なにも異変はない。

持ち上げてみたことがあるわけではないが、舞台上での落下音からいって、ライトは決して軽いものではないだろう。
もしボルトが緩んでいて耐えきれず落ちたのなら、最後の一瞬にかかった無理な力によって、多少の歪みができていてもおかしくないはずなのだ。

だが眼鏡いらずの直姫の目には、歪みも傷も、塗装の剥がれすらも、なにも確認できなかった。


(やっぱり、ネジはわざと外されたのかも……)


スラックスのポケットに手を入れた。
くしゃ、という音を立てたのは、あの脅迫状だ。

序盤のシーン、質素な直の部屋での場面で、異彩を放ちつつもしっくりと溶け込んでいた、小道具の一つを思い出す。

直姫の目が確かなら、この脅迫状を書くことができたのは、そしてライトを誰にも気付かれずに舞台へ落下させられたのは、たった一人しかいない──。

そして直姫は思い当たった人物を捜すため、管弦楽部の演奏が始まったホールを、一人抜け出したのだった。

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