ONLOOKER Ⅱ

***

ところ変わって、直姫が更衣室に戻って制服のジャケットを羽織り、観客席へ戻ろうとした時。
同時に隣にある控え室の扉が開いて、話しながら出てくる二つの人影があった。


「先輩、いませんね、西林寺くん」
「全く……、どこに行ったのかしらね」


耳に入った会話に自分の名前が出たことに驚いて、直姫は再び更衣室へと体を引っ込めた。

すぐさま、真琴の言っていたことが思い当たる。
写真部が、まだ直姫を探していたようだ。


(見つかったら面倒そう……)


そのまま隠れて二人をやり過ごそうと考えていた時だった。
通路に置いてあるなにかが、暗闇に慣れてきた視界に入る。


(え……まだ置いてある?)


直姫がさっき躓いたのと、同じ物だ。

なぜ誰も退かさないのだろう。
危ないとは思いながらも、彼女らがいては、出るに出られない。

すると、写真部の部長である女子生徒が、それに気付いたらしい。


「ちょっと!」
「は、はい」


部の後輩なのか、彼女を先輩と呼び一緒に直姫を探していた男子生徒に、声をかける。
そしてその、通路の邪魔になっている物体を指差した。


「これ、うちの機材でしょう。ずっとここにあったの? こんなところに置いておいたらダメじゃない、危ないわよ!」
「あ、すいません!」


男子生徒が、慌てて駆け寄る。
そしてその、撮影機材が入っているらしい大きなスポーツバッグを肩に掛けると、他の場所を探しに去って行ったのだった。


「…………写真部かよ」


そんな直姫のやるせない突っ込みも、会場に響く恋宵の歌声とギターサウンドと、生徒たちの歓声に、掻き消されていったのだった。

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