ONLOOKER Ⅱ


急な話に頭を過ぎるのは、親睦会の、あの出来事。
さめざめと泣いていた姿を思い出す。


(あそこまで言うこと、なかったかもな……)

「──西林寺くん、」


少し後悔していた直姫は、自分を呼ぶ声に振り返った。

そこに立っていたのは、松浦美穂子嬢だ。
彼女は明るくて社交的で、どちらかというと麗華と似たタイプにも思えるが、城ノ内未奈とはいつも一緒にいたような気がする。


「おはようございます」
「あ、松浦さん……おはよう」


親友の城ノ内が突然転校してしまって落ち込んでいるのでは、と思ったが、松浦はいつもと変わらない笑顔を浮かべている。
二人の親密さを考えれば当然とも言えるが、知っていた人というのには、彼女も含まれていたようだ。

直姫は、そんな姿に無意識下で、少なからず安堵する。


「実は、西林寺くんに渡したい物がありますの」
「え?」


そう言って松浦嬢は、薄いピンク色の封筒を差し出した。


「これ、未奈からの預かり物です」
「ミナ……って、城ノ内さん……?」


また手紙か、と思いながら、躊躇いがちに手を出す。
直姫がそれを受け取ると、松浦はすぐに背を向け、歓談中の女子の輪に入っていった。


「ええ、なんだろう」
「城ノ内さんって直姫のファンだったよね。結構わかりやすく」
「え?」
「ファンレター……いや、ラブレターとか?」
「まさか……」


ファンなんて、芸能人じゃあるまいし。
真琴の熱心なファンの仕業だろうと考えていたあの出来事が頭に過りながらも、笑いながら開いた便箋。

しかし、そこに目を落とした瞬間、直姫はぴしりと固まってしまった。

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