ONLOOKER Ⅱ
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その危機的状況にいち早く気付いたのは、この人だった。
「くそ、いい加減喫煙所作ってくれねえかな……」
校内全域禁煙が原則の悠綺高校で恐らく最も生き辛さに悩まされているであろう、赤髪の不良教師、竹河居吹だ。
そうぼやきながらも、職員室の裏口から半身を外に出して、煙草に火を点けている。
そこへ、控えめなノックと、職員室の扉が静かに開く音が聞こえた。
「失礼致します」という、可愛らしい少女の声も続く。
「あぁ?」
他の誰かが応対することを期待するわけにもいかない。
わざわざ誰もいない時間帯を見計らって煙草を取り出したのは、他でもない居吹自身なのだ。
彼は点けたばかりの煙草を携帯灰皿に押し込むと、煙を手で払うようにしながら、扉の方へ向かった。
「はいはいはいなんですかー」
「私、明日付けで一年B組に短期転入することになりました、志都美と申します。藤井先生はどちらに……?」
はきはきと答えたのは、すらりと長い手足と端正な顔立ちの少女だった。
成長期特有のアンバランスな線の細さが、清楚さを醸し出している。
この学校で美少女といえば、剣道部の主将でもある生徒会副会長がすぐに思い出されるが、彼女の飾らない凛々しさとはまた違った、けれど確かに美少女だ。