ONLOOKER Ⅱ


教室の扉が、がらりと音を立てて開いた。
いつものように入って来たのは、一年B組の担任、藤井だ。

しかし、いつもとどこか様子が違う気がして、生徒たちは戸惑う。


「えー……もう皆知ってるとは思うがな、その……りゅ、留学生を紹介する……」


どこか挙動がおかしい。
彼はもともと気を遣いすぎるほうなので、理由なく居心地悪そうにしていることというのはよくあるのだが、それにしてもだ。

蝶が飛ぶように泳ぐ目線に、クラス中が気を取られていた。
そんな中、扉に向かって声をかける。


「そ、それじゃあ、どうぞ入って」
「はい」


落ち着いた返事と共に教室に入って来たのは、その声から想像できうる限りで、最上級の美少女だった。

藤井がチョークを手に取り、ぎこちない手付きで、黒板に白い文字を書きつける。
『志都美 里吉』、それが彼女の名前だ。


「えーと……こちらが、この度イギリスから留学してきた、志都美さと」
「ここで二週間ちょっとお世話になります、よろしくお願いいたします。どうぞ、りよって呼んで下さいね」


遮るように彼女がそう言うと、藤井が固い動きで眼鏡を直す。
鼻の頭には脂汗まで浮いて、なにかとても物言いたげにしていた。

だが、そんな挙動のおかしい担任の様子を、細かく観察していちいち気にするようなクラスではない。


「まぁ、とても綺麗な方ね!」
「イギリスからですって! 私、イギリス大好きなのよ」
「こんな時期に短期留学なんて珍しいね。旅行がてらかな?」

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