ONLOOKER Ⅱ
見たところ航空便のようだが、なぜかいつも世界中を飛び回っている理事長のことだ、特に珍しくもない。
封を切って取り出した紙は、上質な純白のもので、滑らかなその表面には、透かし模様が見えた。
偽造を防ぐために、理事長からの公的文書にはすべてに必ず入っているものだ。
複雑な紋様を紙の裏表からプレスしているのか、じっくり観察してもなにが描かれているのかはよくわからない。
「今はイギリスにいるんだとよ。多分BTSの社長と知り合いなんだろーな、留学もそのコネだろ」
「嫌な予感しかしないけど……」
小さく溜め息を吐きながら、夏生が手紙を開く。
濃い紫の字で綴られた、達筆が見えた。
中身を見た途端にぴくりと眉を震わせた夏生に、恋宵が「にゃあに、読んで読んで」とねだる。
夏生は彼女にちらりと視線をやってから、溜め息を一つ吐いて、声に出して読み上げはじめた。
「『生徒会諸君へ。この度日本へ留学した志都美家の』…………『御令嬢のこと、よろしく頼みます。』」
わずかな抵抗なのか、ある一単語の前でやけに間が開いた。
少しだけ眉をしかめて、続ける。
そうして読んでいくうちに、彼の嫌な予感が見事に当たっていたことが、誰の目にも耳にも明らかになっていた。
「『日本での高校生活は慣れないでしょうから、手を貸してあげてください。それから、なにやらBTSのライバル社が隙を狙っているという噂を聞いたので、くれぐれも彼女を一人にしないように気を付けて』……」
「え?」
「……どういうこと、これ」