ONLOOKER Ⅱ


昨日生徒会が受け取った手紙を書いていた時点ですでに、学校近くのいくつかの生徒の家に連絡済みだったらしい。
その中には、悠綺高校から徒歩十五分の小山の麓に荘厳と構える石蕗家と、そこからさらに徒歩十五分ほどの、夏生が暮らす東雲家の別邸、そして車で二十分かかるがホテルよりはずいぶん近い、伊王家も含まれていた。

もちろん他にも何件か挙がっていたが、護衛やらなにやら面倒な話が出てきたせいで、必然的に候補は生徒会役員の家に絞られてしまう。

その中で、学校から最も近く、家主が快諾してくれ、かつ色々と都合が良かったのが、紅の家だったというわけだ。


紅は普段は徒歩通学だが、今朝は里吉への取り計らいによって、送迎の車と、前後に六人のボディーガードの乗った護衛車までつけての登校。
そんな落ち着かない空気の中で里吉と在宅時を共に過ごすというだけでも、ずいぶん神経を磨り減らしそうである。

だというのに、面白がった恋宵までもが、昨日から泊まりがけで遊びに行っているのだ。

まだ一晩、すでに紅の心労は計り知れない。


「紅先輩、かわいそー……」
「その紅先輩に八つ当たりされる、准乃介先輩もね……」


いくら苛立っていても、紅は同性の友人や後輩たちには、一切そんな態度を取らないのだ。
矛先が向けられるのはいつも、なぜか決まって准乃介だけ。

不機嫌な紅の扱いに困って苦笑する准乃介が、目に浮かぶようである。

ご愁傷さま、とばかりに、二人は溜め息を吐いた。


「ご自宅での石蕗先輩は、どんなご様子?」
「それ、ぜひ聞きたいわ!」
「そうね……、剣道のお稽古を少しだけ拝見しましたけど、とても凛々しくて……惚れ惚れしましたわ」
「まあ、素敵ね……」
「憧れますわ……」


礼儀正しい留学生の皮を被った里吉が、様々な言葉を並べて、殊勝に紅を誉めちぎる。

教室の喧騒に紛れ、お嬢様たちの上品な笑い声と、里吉の話にざわめく声がただただ、響いていた。

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