ONLOOKER Ⅱ


「どうって……なんで着物」
「一度も着たことがなかったので、着てみたかったんです」


だからなぜ今このタイミングで、ということを尋ねているのだが、その質問の意図は伝わらなかったらしい。

聞けば、今回日本で一番はじめに寄ったのが京都で、そこで注文していた着物が今朝、先日まで泊まっていたホテルに届いたのだそうだ。
移動先は知らせてあったので、すぐにホテルからここまで届けてくれた。

きっと、今日帰って来たらホテルから荷物が届いていて、開けてみたら買った着物が入っていたから着てみた、なんていうだけの実にマイペースな理由なのだろう。

紅い着物は里吉の、黒目がちで切れ長の目や、艶やかな黒髪には良く映えていた。


「にゃあーかぁわいい~」
「でしょう? 桜と迷ったんですけれど」
「赤にして正解にゃよ」


全員が顔を引きつらせる中で、恋宵が手のひらを合わせて、にこにこと笑って言う。
この時ばかりは直姫も、あんなふうに素直に誉められる彼女を、少し羨ましいと思った。


「やっぱこの子ちょっと……」
「なんだっけ、大友さんが言ってた……女の子は恋をするとアホになりますの?」
「違うよ直姫……」

< 81 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop