ONLOOKER Ⅱ
「どうって……なんで着物」
「一度も着たことがなかったので、着てみたかったんです」
だからなぜ今このタイミングで、ということを尋ねているのだが、その質問の意図は伝わらなかったらしい。
聞けば、今回日本で一番はじめに寄ったのが京都で、そこで注文していた着物が今朝、先日まで泊まっていたホテルに届いたのだそうだ。
移動先は知らせてあったので、すぐにホテルからここまで届けてくれた。
きっと、今日帰って来たらホテルから荷物が届いていて、開けてみたら買った着物が入っていたから着てみた、なんていうだけの実にマイペースな理由なのだろう。
紅い着物は里吉の、黒目がちで切れ長の目や、艶やかな黒髪には良く映えていた。
「にゃあーかぁわいい~」
「でしょう? 桜と迷ったんですけれど」
「赤にして正解にゃよ」
全員が顔を引きつらせる中で、恋宵が手のひらを合わせて、にこにこと笑って言う。
この時ばかりは直姫も、あんなふうに素直に誉められる彼女を、少し羨ましいと思った。
「やっぱこの子ちょっと……」
「なんだっけ、大友さんが言ってた……女の子は恋をするとアホになりますの?」
「違うよ直姫……」