ONLOOKER Ⅱ
「おはよう」
その瞬間、金切り声が土砂降りのように一帯を覆う。
誰が呼び出したのか、“悠綺の王子様”なんて呼び名もあるくらいだ。
人前では絶対に裏を見せない、麗しく美しいその姿は、そんなネーミングセンスのない名前にさえ、ぴたりと似合っていた。
南校舎のアーチを潜ろうとする後ろ姿に、紅が声をかける。
「夏生、おはよう」
「あ、おはようございます。みなさん……お揃いで」
「おはにょろ~。朝からすっごいにゃあ」
黒スーツに険しい目付きといういかにもな男たちを引き連れているのが、自分の友人たちだと気付いて、さすがの夏生も一瞬視線がフリーズした。
表情には少しの乱れもないが、「そっちもね」と目が言っている。
だがすぐに、柔らかい笑みと丁寧な物腰で、挨拶を寄越した。
「准乃介先輩、今日ちょっと遅めなんですね。歩きですか」
「途中からね」
准乃介たちからすればそんな振る舞いは今さら不気味としか思えないのだが、ここは生徒会室ではないのだ。
明らかに異質な集団を前にしてもそのスタンスが崩れないあたりは、さすがと言える。