ONLOOKER Ⅱ
「夏生様っ、おはようございます!」
「あぁ、志都美さん。おはよう」
そんな夏生に、里吉は花のような笑顔を送った。
さっきまでのあからさまに不機嫌な態度はどこへ行ったのだろうか。
言葉こそ誰に対しても丁寧だが、里吉がこんな笑顔を見せているのは、今のところ夏生に対してだけである。
「嫌ですわ、志都美さん、なんて。名前で呼んでくださればよろしいのに……」
里吉は頬を両手で覆って、照れたように小首を傾げながら言った。
可愛らしい仕草ではあるが、中身は今年で十六歳になる男性である。
顔には絶対に出さないものの夏生が全身全霊でドン引きしているのが、准乃介たちには空気と、さりげなく完璧に作られた微笑みで読み取れた。
それにしても、名前で呼んでくれ、と来るとは。
否定する理由も見つからないし、素直にそうするにしても、なんと呼べばいいのか迷う。
一体どう返す、と固唾を呑んで見守っていた彼らは、直後夏生の口から出た言葉に、思わず目を剥いた。
「あぁ、そうだよね……サトちゃん」
里吉も、言ってみただけだったのだろう。
そうだよね、と言われた時の意外そうな顔から、引きつった頬へと表情が変わる。
夏生はにっこりと作り笑顔を浮かべたまま、「じゃあ、またあとでね」と手を上げる。
その背後では紅が呆れ、恋宵と准乃介は襲いかかる爆笑の波と、必死に戦っていた。