ONLOOKER Ⅱ
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「おはようございます、志都美さん」
「志都美さん、おはよう」
幾つもの声がざわめき合う教室に入った里吉に、クラスメイトたちが次々と声をかける。
「おはよう、みなさん。ごめんなさい、通してくださるかしら?」
人の波を避けて、彼女が真っ先に歩いてきたのは、ある二人の元だった。
一番窓際、最後尾と、その前の席。
辿り着いた里吉は、いかにも作ったような笑みを浮かべている。
「西林寺くん、佐野くん、おはようございます」
「あぁ……おはようサトキチくん」
「ちょっ、だめだよ直姫」
「あ、そーか。サトちゃんだ」
前の席の主はとろんと眠そうな目を里吉に向けて、ゆるりと声を出した。
里吉が来た日と同じように、思考のほとんどが目覚めていない状態らしい。
そんな直姫に、里吉は低い声で言った。
「やっぱりあなたたちですの、私に変なあだ名を付けたのは……」
「え?」
「あっ」
俯いた里吉の顔を見れば、いつのまにか作り笑顔は消えている。
上がった口角はひくりと引きつっているし、目尻は吊り上がって、今にも眉間に青筋の立ちそうな表情をしていた。
それを見て顔を見合わせた直姫と真琴は、白々しいとは思いながらも、小さく笑ってみせた。
眉尻の下がった、いつもの“困り笑顔”を浮かべて、真琴が言う。
「し、志都美さん? どーしたの」
「夏生のせいだよ」
「わっ」
突然聞き慣れた声が登場して、体ごと黒板のほうを向いていた真琴は、驚いて振り向いた。
直姫は気付いていたようで、真琴の頭越しに、ぱちりと目を瞬かせて彼を見る。
「准乃介先輩、」