ONLOOKER Ⅱ

***

昼休み、クラスメイトに囲まれて話す里吉に話しかけながら、皆この人が男だって知らないんだよなぁ、なんてことを直姫は考えていた。


「サトちゃん、昼は食堂?」
「だから、その呼び方はやめてくれます!?」
「ええ……呼びやすいのに……かわいーし……」
「それは夏生様だけの特別な呼び方にすると決めましたのっ」


直姫が『サトちゃん』と話しかけるたびに、里吉はそんな調子で眉を吊り上げている。

そのあだ名は別に夏生がかわいらしいからと呼びはじめたわけではなく、恋宵の実に適当な思い付きから誕生した、という真実は少しも知らないようだ。
里吉が怒るのを面白がって、直姫がわざとその名前で呼んでいるということは、気付いているだろうか。

しかし、そんなさりげなくサド思考の直姫に、自業自得とも言える思いがけない災いが起きた。


「本当にあなた、いい加減にしてくださる!? 気分を害しましたわ、なにかお詫びして!」


一日中、ことあるごとに『サトちゃん』と呼び続けた結果が、これだ。

直姫は眉をしかめた。
怒らせたのは自分なのだから、逆ギレにも近い。

つんと顎を上げて見せる里吉に、なにをしたらいいの、と聞いて見れば。

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