ONLOOKER Ⅱ
「ふふ、驚きました?」
「は……?」
「ドッキリ第一弾、せーいこーう! さっき部屋に帰って来たのは、サトちゃんのふりした恋宵ちゃんでしたー!」
「ふり? って、なんで」
「さあさ、なっちゃん? さっきの約束覚えてるよな? 俺の言うこと、なんでも一つ聞くって」
「……お前、まさか」
はた、と。
夏生は、聖を睨みつける。
ずっとそわそわしていて、どこか様子がおかしい、なにか企んでいるとは思っていた。
最初から、夏生に対して仕組まれたことだったのだ。
榑松が乱入する勢いで積み木の塔が倒れるところまで計算づくで、ちょうど夏生の順番で入ってくる手筈になっていた。
ようやくそう気付くが、時すでに遅し、というやつだ。
「今からサトちゃんと二人だけでデートしてきてくださーい」
「はぁ? 冗談でしょ。あんなボディーガードまで付けられてるやつがなに言ってんの」
「冗談と書いてマジと読む! お前に拒否権はなーい!」
「なんで俺が」
「聞きたい?」
にんまり、という表現がこれ以上ないほど似合う笑い方をした聖に、夏生は大きく溜め息を吐いた。
どんな答えが返ってくるか、あまりに容易に想像がついたのだ。
「面白いから」。
きっと間髪入れずに、そう言うに違いない。
夏生が聖の立場なら、間違いなくそう言う。
石蕗邸の門を潜ったところに、タクシーが止まっていた。
聖は夏生をそれに押し込むと、運転手に行き先を告げ、「いってらっしゃーい」と手を振った。
夏生は、小さく舌打ちをする。
かくして、帽子と眼鏡なんてベタな変装、上機嫌の里吉と、極めてご機嫌斜めな仏頂面の夏生の、お忍びデート大作戦は決行されたのだった。