ONLOOKER Ⅱ

***

直姫の携帯電話が、振動で着信を知らせる。
電話の相手を確認すると、隣の部屋に移って、受話ボタンを押した。


「もしもし。夏生先輩? どうしたんですか?」


声を潜めてそう言った途端、いつもより格段に低い声が、受話器から這い出す。


『どーしたんですかじゃねーよ、これ考えたのお前なんだって?』
「あぁ、はい」
『なんで俺一人こんなめんどくさいことしなきゃいけないの。観光目的なら俺たちじゃなくてもいいでしょ』
「大丈夫です、ちゃんと自分たちも見張ってますから」
『はあ? だったらなおさら』
「二人きりの方がサトちゃんが楽しいかなーと思って。あとおもしろいから」
『おい今なんつった。お前もかよ……』
「……正直、サトちゃんがあんまり我が儘ばっか言うから、もう嫌んなっちゃって。そもそも先輩が節操ないからこっちまで追っかけて来ちゃったんじゃないですか」
『俺のせいじゃないでしょ。ふざけんのもいい加減にしてよ』
「文句はあとで聞きますから。適当にサトちゃんの相手しててください、ちゃんとすぐ追い掛けます」
『は!? ちょっと直、』


夏生の言葉を最後まで聞くこともなく、通話は終了していた。

携帯電話を持った手を降ろして、直姫は襖に近寄る。
わずかに開けた隙間から、廊下の黒いスーツ姿が見えた。


「あとは……うまく抜け出せるか、かな」


恋宵たちが帰ってこないことを、彼らもいい加減不審に思うだろう。
そしてそこにいる里吉が、ロングヘアーのウィッグを被って下を向いた恋宵だということに、気が付くのに時間は必要ないはず。

それまでに、なんとか。
なんとかしなくては。

けれどもうすでに、計画は大詰めだ。

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