ONLOOKER Ⅱ


「サトちゃん、夏生先輩たちが、おやつ運ぶの手伝って欲しいって。榑松さんがすごいの用意してて、全然持ちきれないんだって」


部屋に入るなり、里吉の姿をした恋宵に向かって言う。
声を出せば別人だとすぐに気付かれてしまうので、話さない彼女のカムフラージュのために、准乃介と紅と真琴が周囲でがやがやと話している。

二人が部屋を出ると、その後を、スーツの男たちが三人、ぴたりと付いて来た。

里吉と恋宵では五センチメートル以上も身長差があるので、それを悟られないように、踵を浮かせて歩いている。
毛足の長いスリッパのおかげでなんとか誤魔化せてはいるが、今この一瞬しか通用しない手だろう。

歩きながら会話がなくてもなんとか不自然ではないように、直姫はずっと携帯電話を操作するふりをしていた。
忙しなく指先を動かしているが、男たちがこちらを注視している様子はない。

これは、直姫が数日間、里吉とボディーガードたちと行動を共にして、気付いたことの一つだった。

彼らの護衛対象者は、あくまで、里吉一人だけなのだ。
だから他の人間がなにをしていようと、里吉に関係がなければ眼中にはないし、逆にいえば、彼らがどんな状況になっても、最優先するのは里吉の身の安全だけなのである。

それなら、それを利用するまでだろう。

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