俺様婚約者~お見合いからの始まり~
その時、母の目がすかさず私の指先の輝きを捉え、大きく見開かれた。

「澤乃井さん、あの…、それ…。百合子、ちょっと見せて」

母が私の左手を取って自分の目元に近付ける。

「あ…、先ほど戴いたの」

私が慌てて言うと母の目はさらに大きくなった。

「こんな…、こんな、高価なもの…。この子にはもったいないですわ!
あの、どうか、別のものに…」

母がおろおろしながら悠斗に訴えかける。

しかし彼は微かに微笑みながらさらりと言った。

「いえ、これは、百合子さんにこそ似合います。
そう、仰らずに、私の思いの深さを分かって下さい」

「…まあ…。
よろしいのかしら…」

「ええ、是非受け取っていただきたいのです。

それでは…、私はそろそろ失礼致します」

悠斗はポカンとする母にそう言うと、私の方を向いた。

そして母の目前であるにも関わらず軽く屈むと私の唇に優しいキスを軽く落とした。

「……ちょっ…!」

「…おやすみ、百合子。
また連絡する」



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