それはたった一瞬の、


息を吸って吐き出せば、彼女も同じタイミングでそれを繰り返した。


「それで、何か悩んでおられたのでしょう?私でよければ相談に乗らせてください」

話題の転換、絶妙な気配り。

私には到底できそうにない。

「柊にかわされてばっかりなんだ」

「柊に…ですか」


降ることのない雨の音が、心の中でリズムを刻む。

雨粒のように自由に踊れたらどれだけいいか。


私は自分の方向を変えるのが怖くて、ずっと立ち止まってばかりだ。



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